file.10『醜い果樹園とスケアクロウと狡賢い大烏』



畑の少女の非業の死にはもう少し続きがありました。


本国からの用事を済ませ久しく邸に帰ってきた当主を迎えたのは

閑散とした屋敷と

畑でした。

当主はここに来て初めて自分が一番大事な事を忘れていたことと

其れが時既に遅かったということにも気が付きました。

当主は屋敷が無人なのを確認し畑に飛び出しました。

一人だといつもよりずっと広く感じる自分の畑。

何処を探しても見つからない大事なヒトが見つからない

散々穴をあちこち掘り返して探しもしたが大事なヒトは見つからない

隷属の徒としてではなく、一人の女性として。大切なヒトが…見つからない。

彼は畑の中心で一人、絶叫。号泣。

身分の差で伝えられなかった気持ち。彼の恋は終わってしまった。


彼は、最期に一体のカカシスケアクロウを畑に無造作に備え

其の日からまるっきり畑の手入れを怠るようになってしまった。

しかしそれとは裏腹に収穫の季節へ向け作物達はその実を太らせてゆく。

その様はまるで今は亡き少女の亡霊を見ているかの如くだった。

実際はその通りなので何も不思議は無いのだが。


当主は、記念すべき日から涙を流し続け其れは決して枯れることも無く

彼は失意のまま収穫の季節を迎える。

暫くぶりに邸の外に出て畑へ向かった当主を待っていたのは

それはそれは不気味な実を実らせた作物達であった。

どこがどう、不気味かって。ああこれ以上はいえません。

遂に彼は自らの邸と畑を捨て都会へと去って往きました。

そして彼は生涯恋をすることはありませんでした。



この不思議な邸と畑はこの後幾度か持ち主が変わるのですが

その畑は毎年収穫の季節になると不気味な作物を実らせ

持ち主はすぐに手離してしまうのでした。

そうこうしている間に早数世紀―――。

現在はある辺境の地に件の畑が未だに存在しているといいます。

その畑の中心には現在不思議な館が建っているそうです。

この土地の歴史を遥か遡ってみると

始めからあった邸が建つずっと昔、

そこには大きなお城が建っていたそうです。

旧人こじん曰く、地方に散らばる伝承や言い伝えなどは

大抵大きな一つの物語になっているそうですよ。

夢が、幻想が、辺境の地に萃まってきました。




ちなみにこれは私だけが知っていればよい事なんですが

今の君主、いや先代の当主、いやいや先々代の当主…

もっと前、始まりの当主が備えたカカシは今も畑に立っているといわれ

実はその丁度真下であの少女はその生涯を終えていたのでした。

…今ではもう、吸い上げるものも残ってはいないでしょう。

2005, 7/19

inserted by FC2 system