file.7『Dream train』



人間が殆んど立ち入ることの無い(できない)桃源郷。

一説には下界と向こうを繋ぐ境界に結界が張られているらしい。

今回のお話は丁度其の結界と下界の境界に位置する辺境にまつわる、そんなお話。

曖昧な存在であるその土地に迂闊に足を踏み入れたニンゲンは戻って来れなくなるし

変わり者の人間が住んでいたりもすることからそこは辺境と呼ばれていた。


その地を宛ても無く彷徨っていると不意にうち捨てられた線路を見つけることがある。

レールは錆び切ってから既に久しく、枕木は腐食し、

線路の上は雑草や石などで荒れきっており、もはや昔の面影はどこにも見受けられない。

この土地が興隆を極めていた頃、この線路は沢山の人々の夢を運んでいたに違いない。


実は今でも、


不定期ながらこの土地に列車が通ることが在る。最期に来たのは…今からもう11年も前のことである。

夜も更け、時刻表など在る筈もない真夜中、線路の上に居る時、

どこからともなく蒸気機関の動く音が聞こえてきたら、続いて汽笛の音が聞こえてくる。

もし自らが本当に夢を持っているとしたら、子供の頃のあの気持ちを持ち続けていたなら。

強くそう、願ったならば。

列車はその姿を見せる。

彼方はもう握っている、夢にまで見た片道切符を。

その列車は夢追い人ドリームチェイサーを乗せ、約束の地への橋渡しをする。

いわば最後のノアの箱舟なのだ。

列車は線路の上を滑る様に軽快に走り、

そのレールの先は、遥か高く、幾千もの星々の煌く漆黒の大空へ続く。


地上が月の狂気にあてられ、まだ穢れの無い頃。

夢列車は月の都まで乗客を乗せていたが、今ではその便は無くなっている。

最近の終着駅は月の都の一つ手前の駅、

流星宮にて全てのヒトを降ろし終え、

また、穢れ多き星の辺境の地へとダイヤルを合わせるのである。

純粋な夢が多くの穢れでだめになってしまう前に。

2005, 6/24

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