file.8『少女サテライト』



はじめはなにもなかった。

やがてAlphaはじまりが起こりOmegaおわりに向かって全てが動き始めた。

無限空間に幾つかの天体が誕生し其の内の一つは

水を湛えた蒼い星となった。

そんな中、現在の天体の誕生した時を同じくして一つの衛星が産まれていた。

その衛星は月の裏側に位置しており

二つの星は永い歳月を共に、蒼い星を見守り続けた。

やがて永い年月を経て衛星が蒼い星に対し“精神”ココロを持つようになった。

衛星は決まって月の陰から蒼い星を見つめていた。

蒼い星はやがて生命を育む母星となった。

母星といつも向かい合っている月に衛星はいつも

母星のことを話して聞かせてもらっていた。

気の遠くなるような時間をかけ母星は生命に試練を与え続けた。

生命は幾度と無く滅びかけながら進化と淘汰を繰り返していった。

最初の生命が誕生してから現在に到るまで、

此の星の歴史は絶滅の歴史で紡がれてきた。

そして遂に究極ともいえる生命体が今、母星を蝕む結果となっている。

愚かな彼等は自らが巨大な命の一部に過ぎないのを知らず

同族同士で不毛な歴史を何世紀にも亘り築き上げた。

胎内での負担はやがて母体に影響を与え始め、月と衛星は母星を見るのが辛くなっていった。

更に数世紀が過ぎニンゲンの科学が全盛期を迎えた頃。

遂には遣いの者が月に送られ凄惨な虐殺が行われた。

衛星の見てる前で何人もの月人達が殺された。

世紀単位でも数え切れない位永い付き合いだった者達が無残に殺されてゆく。

愚かしいニンゲン達は母なる器を喰い散らかすに飽き足らず、

新たな器までも貪るつもりだった。


衛星は決心した。

愚かしいだけでなく幾千幾万の罪で穢れきった種族、

人間を絶滅させることを。

自分が今できることを彼女・・なりに考えた結果だった。

ニンゲンでは到底体感できない時空単位の想い、幻想。

彼女は永い間変えることの無かった軌道軸から外れ愛する星へと向かう。


ニンゲンが栄えるよりも遥か昔。

母星では巨大な竜が繁栄を極めていた時代があった。

その栄華を一撃の下に粉砕した力。

その力を彼女も持っている。

星単位の優しさ。今のニンゲンには過ぎたものでしかない。

滅せよダムド人間ヒューマン。全ては愛故に。

2005, 7/8

inserted by FC2 system